AIモデルとプラットフォーム
「Science」誌掲載の研究で、Microsoftの診断AIが総合診療医を上回る

2026年10月22日にScience誌で発表された査読付き研究で、Microsoftの診断システムMAI-DxOは、複雑な症例において、参加した総合診療医を上回る成績を示した。New England Journal of Medicineの症例記録を用いた評価で、システムの正診率は83.2%だったのに対し、参考資料を使った医師の正診率は36.1%だった。
この研究「言語モデルによる逐次診断」は、Science第394巻第6822号の423~428ページに掲載されている。2026年4月4日に受理され、2026年8月10日に採択された。著者15人は全員Microsoftの従業員で、Microsoft AIの最高経営責任者であるMustafa Suleymanのほか、Dominic KingとEric Horvitzも名を連ねている。同日の発表でMicrosoftは、この研究が同誌の「AI in Medicine」特集号に「本日Science誌で発表される」と述べた。
段階的な診断を軸に構成されたベンチマーク
論文では、Sequential Diagnosis Benchmark(SDBench)が紹介されている。このベンチマークは、New England Journal of Medicineの臨床病理カンファレンス症例304件と、MIMIC-IV-EDデータセットの救急外来から入院に至った症例325件を、対話形式で段階的に診断を進めるケースに変換する。各ケースは簡潔な臨床症例の概要から始まり、医師であれAIシステムであれ、診断者は病歴や診察について質問したり、診断検査を依頼したり、最終診断を確定したりできる。評価では、参照診断に対する診断精度と、依頼した検査の推定累積費用を測定する。
各診断プロセスは、2つの補助エージェントによって構成される。Gatekeeperエージェントは、あらゆる情報要求を元の症例記録と照合し、要求された所見が記録にない場合には、診断を誘導しない合成結果を生成する。これにより、データの欠落が答えを示す手掛かりにならないようにする。Judgeエージェントは、医師が作成した5段階の評価基準に基づき、確定診断を参照診断と照らし合わせて採点する。診断後も治療方針が変わらない場合に相当する4点または5点の診断は、正解として扱われる。検査費用は、Kaiser Permanente Washington Central Hospital Standard Chargesのファイルに基づくCPT準拠の価格設定を使って推定した。病歴や診察に関する質問の費用は、固定額の診察料に含めた。
ベンチマークでは、論文中でDxOと略されるMicrosoft AI Diagnostic Orchestratorを評価した。これは特定のモデルに依存しないシステムで、相補的な役割を持つ臨床専門家のパネルを模して各段階で検査費用を考慮した適正な検査選択を行い、独立した複数回の実行で得られた診断を集約する。Microsoftの発表では、このシステムは複数回にわたって議論を交わす仮想医師のパネルのように動作すると説明されている。著者らは、症例情報をすべて最初に提示して単一の回答を求める従来型のベンチマークでは、システムが適切な質問をするか、むやみに検査を行わないか、診断に十分な確信が得られた段階で検査を終えられるかを評価できないと論じている。
NEJM症例と救急外来症例での結果
臨床病理カンファレンス症例では、GPT-5と組み合わせたDxOは、予算制限なしの条件で、症例あたり平均5,431ドルの費用で83.2%の正診率を達成した。費用に制限を設けた構成では、2,241ドルで80.9%、1,303ドルで79.6%だった。一方、診断精度を最大限に高めることを目指した構成では、8,945ドルで84.5%に達した。これに対応する医師の調査は、エンジニアリング作業から除外された56症例を対象に実施された。参加者は資料を参照しない条件で764件、資料を参照できる条件で662件の診断を行い、前者では症例あたり3,049ドルで平均正診率22.3%、後者では4,725ドルで36.1%だった。最も成績の良かった医師の正診率は51.8%だった。論文は、診断の進め方にも違いがあったと報告している。医師は最初の検査を依頼するまでに平均5.6件の質問をしたのに対し、GPT-5と組み合わせたDxOは平均25.5件の質問を行った。著者らは、この方法を、体系的な病歴聴取を広範に行うものと説明している。
救急外来の症例では、DxOは予算制限なしの条件で症例あたり4,979ドル、正診率80.3%を達成し、予算制限ありの条件では2,634ドル、73.2%だった。総合診療医の平均正診率は、費用3,400ドルで46.8%となり、個人の医師で最も高い正診率は62.5%だった。最小限のベースライン・プロンプトを用いて評価したすべてのモデルで、DxOによるオーケストレーションは、カンファレンス症例の診断精度を平均7.9パーセントポイント、救急外来症例では4.4ポイント向上させた。Microsoftの発表によると、評価対象となった人間またはAIの手法のうち、MAI-DxOよりも高精度かつ低コストを同時に実現したものはなかった。同社は、救急外来の症例では医師の1.7倍の精度を示し、学術誌の症例では教科書やインターネットを使う医師の2倍を超える精度、そうした資料を使わずに診断する医師のほぼ4倍の精度を達成し、費用はその半分から3分の1だったと説明している。
DxOは、利用可能な最強モデルがGPT-4.1だった時期に開発され、その後GPT-5を用いて評価された。さらに、プロンプトやオーケストレーションを変更せずに、発表前に評価一式をGPT-5.5で再実施したところ、ベースライン・プロンプトに対する精度の優位性は拡大した。この研究の初期版は2025年6月27日にプレプリントとして公開され、OpenAIのo3モデルで80%の正診率を報告した。これは医師の平均正診率20%の4倍に当たり、最大精度を目指す構成では85.5%に達していた。査読済みの論文では救急外来の症例群が追加され、GPT-5とGPT-5.5による評価が更新された。
明記された限界と著者の利益相反開示
著者らは、これらの比較から、専門医、多職種チーム、または実際の臨床診療に対する優位性が示されたわけではないと述べている。また、各症例に対応する専門医やチームと比較した場合、性能差は縮小すると予想していると記している。さらに、不確かな患者の病歴、不完全な診療記録、患者との信頼関係、長期的な経過観察、画像や病理スライドなどのマルチモーダルデータを考慮しない統制されたシミュレーションでは、測定された優位性が誇張されていると指摘している。また、医学誌の症例は診断が難しい事例に偏っている可能性があるという。もう一つの限界として、多分野の専門家による協働ではなく個々の医師との比較であることが挙げられている。さらに、Judgeの評価基準は治療の妥当性、安全性、長期的な管理ではなく、疾患レベルでの診断の正確さを評価するものだという。
論文の開示事項で、著者らは全員がMicrosoftの従業員であり、同社の株式を保有していると述べている。また、複数の著者が、逐次診断の自動評価フレームワークに関連するMicrosoftの特許出願の発明者に名を連ねており、これらの研究にあたってMicrosoft以外から資金を得ていないとしている。
オープンソース公開と臨床パートナーシップ
Microsoftは、一部のNEJM症例を対象に、ベンチマーク、Gatekeeper、Judge、コスト推定コードを含むSDBenchをオープンソース化すると発表した。コードはMIT Licenseの下でGitHubから入手でき、論文の結果に用いられたゲートキーパーとジャッジを固定する「science」という設定が用意されている。SDBenchプロジェクトのサイトによると、医学誌の症例から作成されたデータセットの利用にはNEJM Groupからのライセンス取得が必要であり、MIMICのサブセットは資格審査を条件にPhysioNetを通じて配布される。また、完全に合成された5件の症例が、既定のオープンデータセットとして同梱されている。
関連するポジションペーパー「医療の超知能:基盤と展望」では、相互に依存する医療知能の6つの側面を提示し、医療の超知能という水準に達するには、「個別のタスクで人間を超える性能以上のもの」が必要だとしている。すなわち、ケアの全過程にわたる統合的な医学的推論において、今日最も優れた人間主導の医療システムを上回るシステムが必要だという。Microsoftの発表によると、この論文はBMJ Digital Health and AIに掲載された。同社はまた、Microsoft Researchの科学者やDragon Copilot、PowerScribeを手がけるチームなど、Microsoft各部門の医療チームをMicrosoft AIの統合的な取り組みに結集させると述べ、以前に発表したMayo Clinicとの協業にも言及した。2026年6月2日の発表によると、両組織は医療向けの最先端AIモデルを開発しており、モデルはMayo Clinicが所有し、MicrosoftはAzure Foundry APIsを通じて提供する計画だ。
ボストンのBeth Israel Deaconess Medical Centerとの新たなパートナーシップを通じて、Microsoftは、患者がシステムと直接やり取りし、その性能を医師による独立評価と照らして測定する前向き研究を実施し、病院環境全体で臨床推論能力を評価すると述べた。












